総合系ファームの戦略部門とインダストリー部門の違いの解説

アクセンチュア、PwC、デロイトの様な総合系ファームには、戦略コンサルティング部門とインダストリー部門が存在します。インダストリー部門は経営コンサルティング部門とも呼ばれています。

この総合系コンサルティングファームの戦略部門とインダストリー部門の差分は外から見ているとなかなか分かりづらいところです。

例えば、戦略部門にはよく「○○社に対する、XXXをテーマとする新規事業検討支援」という新規事業案件がありますが、インダストリー部門にも全く同じ様に「○○社に対する、XXXをテーマとする新規事業検討支援」という案件が存在します。

この2つの案件はタイトルやテーマだけを見ると全く同じ様に見えますが、戦略部門の案件とインダストリー部門の案件には明確な差分があります。

戦略部門とインダストリー部門には顕著な差分があるので、転職する際はその違いをよく理解することが重要です。

以下でその違いを解説します。

案件に関する違い

カウンターパートの違い

まず戦略部門とインダストリー部門では案件のカウンターパートが異なります。

戦略部門は会社の経営層、すなわちCxO、事業本部長クラス、経営企画を相手にすることが多いです。

一方で、インダストリー部門は社内でよりオペレーショナルな業務を担当する層、すなわち事業本部内の一事業部の部長・課長をカウンターパートとします。

例えば、同じトヨタの同じ新規事業の検討をするプロジェクトであっても、戦略部門は全社的に最重要とされる新規事業を経営企画や所管担当役員と検討を進めるのに対し、インダストリー部門は一事業部の新規事業の検討を部長や課長と供に進めます。

このカウンターパートの違いが、以下の様々な案件の違いをもたらします。

ターゲットとする時間軸の違い

一般的に、会社組織内では役職が上がるごとに視座が高くなり、職務範囲として捉える時間軸が長くなります。

新人社員が目の前のクライアントの満足のために必死に頑張っている中、課長は四半期の予算達成に奔走し、事業部長は来期の主軸となる新規事業の立ち上げに苦心しています。社長になると、5年後10年後、それ以上の業界変化を見据えた自社の変革を検討しているでしょう。

このように組織内のレイヤーに応じて、検討対象とする時間軸が異なるため、クライアントのレイヤーに応じて、案件が対象とする時間軸も異なります。

このことは案件の対象とする時間軸の違いにも影響を与えます。戦略部門の案件では5年、10年後の業界変化を見越した新規事業の策定が求められるのに対し、インダストリー部門では来期であるとか、目先にすぐに実行できる新規事業の策定が求められます。

案件の複雑度、定型化度合いの違い

戦略部門の案件は対象とする時間軸が長いため、高度な仮説思考力、それを支えるロジックの構築力が求められます。この辺りの作業は、ザ・戦略コンサルタントといったところで、悩ましくもありますが、エキサイティングでもあります。

一方で、インダストリー部門の案件は目先の業界構造・動向をリサーチすれば、落としどころは比較的見つけやすく、定型化度合いの高い案件になります。

戦略部門の案件がアプローチの設計自体に非常に時間と労力をかけるのに対し、インダストリー部門の案件はPEST→業界構造→3C→4Pと定型化された方法を順次検討していくという案件も多くあります。

ある戦略コンサルタントは戦略部門とインダストリー部門の案件の違いを、以下の様に説明していました。
戦略部門の案件は匠が一つ一つ設計するデザイナーマンションで、インダストリー部門の案件は大量生産の量産型マンションの設計

予算の違い

戦略部門のカウンターパートは企業の上位層は多くの予算をコントロールする権限を持っています。また、戦略部門に依頼する案件は企業全体にとって重要である案件のため、多くの予算を拠出する理由があります。

したがって、戦略部門の案件のフィーはインダストリー部門の案件のフィーよりも高くなります

このことにより、PwCやアクセンチュアは戦略部門とインダストリー部門で給料水準が異なります。

組織に関する違い

担当業界について

インダストリー部門の従業員は自分が所属するインダストリーの案件しか基本的に関与しません。オート部門の社員は自動車関連企業の案件にしか関与しませんし、保険セクターの社員は保険業界の企業を担当します。

一方で、戦略部門の社員は、ある程度業界の色がありますが、どちらかと言うとファンクションの色の方が強くつきます。あの人は新規事業に強い、コスト削減に強いというイメージです。(この辺りは、ファームによっても異なります)

特に、戦略部門の若手は様々な業界を担当します。これはトレーニングとして、短期間に業界構造を分析する力を身に着けたり、他業界の知見を応用する訓練の意味もあります。

若く、様々な案件に触れてみたいという方は、戦略部門に入社する必要があります。

人材のレベル、交流に関して

総合系ファームの戦略部門とインダストリー部門の距離は近くなっている傾向があると言われます。

戦略部門の立場から言うと、クライアントがより深い業界知見やテクノロジー知見を求めたり、実行支援まで合わせて以来するケースが増えたからです。

インダストリー部門の立場から言うと、デジタルネイティブが業界横断的に活動したり、対象とすべき競合が必ずしも自業界の企業ではなく、より広範な知見が求められるようになったからでしょう。

いずれにしろ、戦略部門とインダストリー部門が共同で案件に従事する機会は増加傾向にあります。

戦略部門の社員は、いわゆる地頭系のスペックで案件をリードするのに対し、インダストリー部門の社員は業界の知見・慣習やテクノロジーに関するインサイトを提供するというパターンが多いかと思います。

一般的な認識の通り、戦略部門の方が所謂ハイスペックな社員が多く、また、プロフェッショナリズムも強い傾向があるため、案件の違い、職場環境の違いを考慮し、自分に合う方に転職するほうが良いと思います。

コメント