コンサルタントからベンチャー/スタートアップへの転職すべきか?

コンサルティングファームで働く人の中には、ベンチャーやスタートアップに転職したいと考える人は多く、私もよく相談されます。

私は、新卒でメガベンチャーに入社した後に、コンサルティングファームに転職したので、双方の職場を経験したことがあります。

また、メガベンチャー時代の同僚の多くが起業したり、より小さなスタートアップで働いており、スタートアップ界隈を比較的、定点観測できている方かと思います。

ベンチャー/スタートアップへの転職の総論

コンサルタントのベンチャーやスタートアップへの転職について、私は「あまり安易に考えない方が良い」、「転職することで状況が悪くなることも多々ある」というスタンスです。

どうしても転職したい場合は、仮に5年後に金銭的報酬や、人的資産(スキル)の何も残らなくても後悔しないと言えるならば転職しても良いかと思います。

※ここで言うベンチャー/スタートアップというのは、メガベンチャー未満の企業を指します。要するに、楽天、サイバーエージェント、GREE、DeNA、メルカリのような上場企業より小さな、未上場の企業を指します。

ベンチャーに転職すると何が起こるのか?

ポイントは大きく分けて3つあります。

①金銭的に大きく得をすることは少ない。そして、時間がかかる。

スタートアップへ転職を検討されている人は、ストックオプション(SO)による給与外での報酬獲得を目論んでいることも多いと思います。

ストックオプションによる報酬制度は、うまくいった場合に莫大な利益を生む可能性があるのが魅力です。

私の知り合いにもスタートアップに上場前のかなり早いタイミング(上場の4,5年前)に入社して、保有していたストックオプションの価値が数億円になった人もいます。彼は毎日、高級すし店で食事をしています。

一方で、当然ですが、ストックオプションを獲得してそのような報酬を獲得できることは稀です。

ストックオプションで獲得できる報酬の金額感は以下の記事で語られている様に一般的に期待値は決して高くないです。

上場前ベンチャーでストックオプションをもらえば億万長者になれるのか?

高宮慎一さんが語る、ストックオプションのリアルとVCから見るメルカリの上場

また、金額感以外に重要な点は2つあります。1つはストックオプションは大抵の場合、紙屑になる、ということ。もう1つは、成功した場合でも現金化できるまでに時間がかかる、という点です。

1つ目ですが、ストックオプションは大抵の場合、実行する機会が無いままになくなります。。それは、上場できないこともそうですが、生株を持っている創業者がバイアウトによるExitを選択することも良くあるからです。

バイアウトによるExitの場合、生株を持っている創業者にとっては、生株が現金化できるので満足した結果を得ることができます。一方で、ストックオプションの場合は、バイアウトの権利は大抵の場合は消失します。

大企業によるスタートアップの買収が一般化しつつある現在では、バイアウトによるExitを選択する起業家も多いと思います。

面接や入社の段階では「上場を目指す」と言っていた起業家も、ビジネス状況によってはバイアウトを選択することも多々あります。

例えば、私の前職の知人は、メディアでも取り上げられていた有名アプリを展開する企業のCTOをしていました。

結局、そのアプリは後発の競合に資金力や事業展開スピードでついていけず、メガベンチャーに買収されるという結末になりました。(競合企業は数千億円規模で上場)

買収金額自体は数十億円以上であったと思いますが、CTOはストックオプションのみで生株は持っていなかったようです。

飲み会で、彼が語っていた「俺には何も残らなかった・・・」という言葉が印象的でした。

とにかく時間がかかる

また、ストックオプションは現金化するまで、時間がかかります。それは、スタートアップの事業が拡大し、上場できるまで早くても3~5年かかります。

されに、ストックオプションには行使条件として、売却可能期間として上場後の期間や勤続年数が設定させれているからです。

それは、確度が決して高くない投資に自分の時間(人的資本)を数年間(3~5年)以上を投資することを意味します。

コンサルティングファームや大企業であれば、もっと良い経験ができた(キャリアを積めた)というケースも往々にしてあると思います。

実際に、上場すると言われていたのに、数年たってまだ上場していない企業はたくさんあります。

②自分がやりがいを感じると思っていた仕事が本当にやりがいがあるか分からない

コンサルタント方がスタートアップを含む事業会社へ転職を希望する場合に最も多い理由が、「自分で事業をしてみたい」というものです。

事業会社で事業をすることで、これまでと違った経験ができる、実際に手触り感を持ったビジネスができるという期待からだと思います。

この点に関して個人的に思うのが、実際に事業会社やスタートアップに転職した際に手触り感のある実ビジネスを経験する機会が得られるのか?ということです。

経営企画の罠

例えば、私はスタートアップの経営企画で、元コンサルの人と一緒に仕事をしたことがあります。

そのコンサルタントの方は、有名戦略ファームから転職された方でした。

彼は戦略コンサルタントとして新規事業の戦略策定に携わってきたので、今度は、コンサルタントとしてではなく、主体者としてビジネスに関わりたい、というものでした。

しかし、彼のポジションは経営企画で、経営企画はあくまで実際に事業を回すメンバーの補助的な立ち位置でしかありません。事業オーナーとして職務経験のある私からすると、事業感は全くなく、コンサルタントとやっていることはほとんど変わりません

本人に直接聞いたことはありませんが、これで本当に当初、彼がやりたいと思っていた仕事が実現できているのだろうか>?と感じていました。

事業部門にフィットしない元コンサルタント

一方で、事業部門で配属になった場合は、また別の問題があります。

コンサルタントの出身者は経験や給与の水準からいきなりマネジメントをすることが求められます。

そして、このコンサルタント出身者がいきなりマネジメントポジションに入ることは、事業会社でよくあるトラブルの種です。

良くあるのは、現場メンバーからすると、論理的妥当性があるときにしか意思決定できないコンサルタント出身者は事業スピードを落とす邪魔な存在として認識されることです。

悪い噂は会社内ですぐに伝わるものなので、本人が居心地の悪さを感じたり、もしくは、経営陣に噂が伝わることで、事業部門から結局管理部門に異動させられたり、調査ワークがメインの仕事になったりします。

(もちろん、若手で柔軟性のある方は大丈夫だと思いますが、戦略ファームでマネジメント以上の役職だった方が事業部の現場に来て活躍することは、色々な人を見た結果、難しい様に感じます。)

③スキルが身につくか定かではない

戦略コンサルタントという職種は、3年に一度くらいでプロモーションにより新しいロールを体験することになります。

それは、3年に一度、新しい役割にチャレンジし、自身の人的資本の価値をあげる機会がある(=キャリアアップの機会がある)ことを意味します。

一方、事業会社、特にスタートアップではこのようなスパンで新しい職能を手に入れることは難しくなります。

仕事というのはそういうものだ、と割り切れる人にとっては良いですが、出世魚の様にプロモーションを目指してたコンサルタントや自身のレジュメの見栄えに拘りたい人、キャリアアップが好きな人にはつらいものがあります。

結論としては

以上のことをまとめると、スタートアップへの転職は、①金銭的な報いが少ない可能性が高い、②本当にやりがいを感じる仕事ができるのか疑わしい、③新しいスキルが身につくかどうか分からない、ということです。

一方で、私は、それでも転職したいならすれば良いと思います。それは、それだけ、一緒に働く人の魅力や事業が立ち上がった後の社会的価値を感じているからだと思います。

その自分が感じている価値が、5年後に振り返ったときに、給与水準が下がり、大した職歴も残らなかったとしても意味があると思えるなら、ということです。

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